眩しい朝日と小鳥達の囀りに、ティファの意識は、夢の中から現実に引き戻されていった。
「──ん──っふぅ……」
 ティファは短い唸り声と共に、ゆっくり深呼吸をした。次第に意識が鮮明さを取り戻すと、ティファは違和感を感じた。

 ベッドには、ティファ独りの体温しか、存在していなかった。

 

 

For Get me NOT
act3―─君を想う、故に我在り1〜Tifa Side〜

 

 

 窓から差し込む光が、クラウドの居たその場を、一層白く際立たせていた。
 ティファは、暫く呆然とそこを見つめていたが、ふと我に帰り、勢いよくベッドから飛び降りた。

(クラウド!? 何処!?)

 服を着るのも忘れ、ティファは家中を駆け回った。
「クラウド!」
 悲痛な叫びは、徐々に湿り気を帯び、しまいには泣き声となって、小さな建物内に響くだけだった。
 ティファは、何度も階段を往復し、何度も家中のあらゆる場所を、クラウドの姿を求め、ぐるぐる探し捲った。
 ついには、
「……!!」
 寝起きのまま、駆け足になってしまった所為か、ティファは階段を降りる途中、二階付近で、足を踏み外した。声をあげる間もなく、そのまま落下して、全身を強打し、床に倒れこむ。
 激しい傷みに耐え、ティファは起き上がろうとしたが、全く力が入らなかった。
「……う……クラ──ウ、ド──」
 新しい涙が、床を濡らす中、ティファの意識は、少しずつ薄らいでいった。

 

(──ァ、──ファ?)
 ティファの脳中に、呼び掛ける声が響き、次第に大きくなっていった。
(ティファ!)
(ティファ、しっかりして!)
 何処かで聴いたことがある、懐かしくも優しい声音に、ティファは頭の中で返事をした。
(何? 誰!?)
 聞き覚えがある、その声に、ティファは問う。
まさか──?
 答えは判っていたが、ティファには信じがたい──いや、信じたくないその声。

──エアリス!?

 そう、敵わぬ恋敵のエアリスの声。
 どんなに足掻いても、届かない魅力を放つエアリス。
 全てを護る為、花散らせたエアリス。
 ティファの中に、静かに暗雲が立ちこんでいった。
 醜い感情とは、承知しているが、ティファはそれを抑え切れなかった。

「何故貴女が……!?」
「クラウドは? クラウドを返して!」
「私はクラウドを幸せにしたいの!」
「辛い過去より、明るい未来を……」

 エアリスは、そこでティファの頬を、そっと撫であげた。まるで、ティファの湧き出てくる涙を、次々と拭うような手付きだった。

(……ティファ、ありがとう)
(仲良くしてくれて、心配してくれて、そして──)
(忘れないでくれて、ありがとう……)

 エアリスは、細い腕でティファを包み込むように抱いた。
 エアリスの想いが、暖かな掌を通じて、ティファの心に浸透していく。
 ティファは、エアリスにしがみ付き、大声で泣きじゃくった。

──何でいなくなっちゃったのよ!
──馬鹿! 独りだけ、いなくなっちゃったのよ!
──せっかく、友達になれたのに!
──大好き、だったのに……

 ティファは全ての想いを吐き出すように、エアリスの腕に抱かれ、まるで子供のように泣いた。ティファの中に渦巻いていた、黒い感情は徐々に薄れゆき、ただエアリスの親友として。

(ごめんね……)

 エアリスは、一粒だけ涙を落とし、呟きながら、ティファの黒いストレートヘアを撫でた。

(私もティファの事、大好きだよ、今でも……)

「私だって──」
 ティファの言葉は、嗚咽に掻き乱され、最後まで続かなかった。
 エアリスも泣き声混じりで、ティファの頭を撫でながら、言った。

(ありがとう──ティファ。これからも、親友でいてね)

 ティファは、その一言が嬉しかった。闘いの最中、短い間だったけど、色々な想い、且つ同じ時間を共にした、愛すべき親友。
 ティファを苦しめていた、下らない嫉妬は、いつしか綺麗に消え去っていた。
 しかし、抱き合って再会していた余韻も間もなく、エアリスの口から、思いもかけない言葉が発せられた。
(クラウドを助けて、あなたなら出来る、ティファなら……)

「どういう事……?」
「クラウドは──クラウドに何があったの!?」
 ティファは顔をあげ、エアリスに問い掛けた。
 しかしエアリスは、哀しげに微笑むだけだった。
 エアリスの姿は、そのまま薄らいでいった。

(待ってる、あの場所で──)

 最後、消えゆく姿に、金色の光と温もりを残して、エアリスの言葉だけが、ティファの中で、静かに響いた。

 

 ティファは、目を覚まし、勢いよく身を起こした。
 どれくらい、気を失っていたのか、ひどく身体が冷えていた。
 それでもティファの身体には、エアリスの温もりが残っていた。全身の傷みがないのは、エアリスが癒してくれたのだろう。
 ティファの頬は、熱い涙で濡れていたが、逆に頭は冷静になっていた。急いで服を身に付け、まずはシドに電話をかける。
「クラウドが──いないの! いなくなっちゃったの!」
 突然のティファの訴えに、シドは叫んだ「何だってぇ!?」
 あの馬鹿、とシドは小さく吐き捨てた。
「あ、あれだ、とにかく待ってろよ! 心配すんな、アイツのこったぁ、きっと大丈夫だ!」
 シドは、皆を連れてすぐに行くと電話を切った。
 ティファは玄関の外に出て、シド達を待つことにした。ふと、下を見ると、薄紫色の花が、何本か摘まれていた。
(クラウド……なの?)
 ティファは屈んで、顕になった茎を撫で、そして立ち上がった。
 耳に残ったエアリスの言葉が、ティファの中で繰り返えされた。


──クラウドを、助けなきゃ


 ティファは、薄紫色のその花を、ひとつだけ摘み、エアリスの眠る泉へ向かった。
(待っていてね、クラウド……そして、エアリス)

 

 

 

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