長い夢を見ていた。
幸せで満ち足りた日々と、身を引き千切られそうな切ない想い。
懐かしくて、泣きたくなる様な、とても長い夢。
もう、俺の物語は終わった。
二度と目覚めることはない。
そう思っていた。
温かな光に包まれる、その直前までは。
「 た だ い ま 」
――起きて。
どこからか、聞き覚えのある声が、俺の聴覚を刺激する。
――起きて。さあ、キミの新しい物語が始まるんだ。
何処で聞いたのだろう?
俺は朦朧とする意識の中で、記憶の糸を辿っていった。
ああ、そうだ、この声は……。
突然息苦しさに襲われ、俺は大きく息を吐き出した。同時に、俺の五感が甦り、全身を迸る。
ひんやりと心地好い、水の感触。
澄んだブルーの空間に差し込む、眩い光。
俺は、自らの身体から生まれ、上昇していく空気の塊を目で追った。
ここは……この場所は――
ひょっとしたら、という逸る気持ちのままに、俺は輝く水面へ急いだ。
「――っは!」
勢いよく水上に顔を出すと、俺は大きく深呼吸をし、視界に垂れてくる水滴を乱暴に拭い、周囲を見渡した。
熱く照りつける日差しの向こうに、懐かしい景色――ビサイドがあった。
俺は声も出せず、波間に浮かび上がる小さな島を眺めた。
これは夢の続きだろうか? いや、違う。この世界こそが、俺の現実。
灼熱の太陽、海水の冷たさ、鮮やかに広がる青空。これが夢であって堪るもんか。
俺は指笛を吹いてみた。
――夢じゃない。
軽やかに響く音色に安堵し、俺はゆっくり空を仰いだ。
浮力に身を任せながら、目を閉じると、脳裏に愛しい女性の微笑が浮かぶ。
ユウナ――俺の一番大切な存在。
逢いたい、逢ってこの手でもう一度触れたい。
強い想いを胸に、俺は島に向かって、力一杯泳ぎだした。
「ただいま」
その一言を、彼女に告げるために。
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