(キミが──キミが消えちゃう!)

(嫌! 私を置いていかないで!)

(キミのザナルカンド、見せてくれるって、言ったのに──)

(連れて行ってくれるって……言ったのに──)


「──っ──嫌ああああっ!!」


 ユウナは自らの悲鳴で、勢いよく起き上がった。涙がとめどなく溢れてきて、止まらぬまま、小さな嗚咽をあげていた。
 その隣では、ティーダが低い唸り声を漏らしながら、薄目を開けようとしていた。
「──ん……」
 ティーダは、左側に冷たい空気を感じ、眠たい眼を擦りながら、ゆっくり首をもたげた。
「……ユウナ?」
 声を押し殺しながら、ユウナは泣きじゃくっていた。

 

 

愛しい人よ、Good Night

 

 

 頻繁に起こる発作──2年前、ティーダが消えてから、それはユウナを苦しめていた。ティーダが戻ってきた今でも尚、それは消えずに、ユウナの深層心理に残っていた。
 まるで子供のように、しゃっくりをあげながら、泣き続けるユウナを、ティーダは優しく抱き締めた。
「ユウナ……」
 ティーダは温かい声で、愛しい名を囁く。
 ユウナは、その声と自らを包む温もりを感じ、声高らかに泣き出した。
「──っ……ティーダぁ……ティーダ──っ!」
 ティーダにしがみ付きながら、ユウナは大声で泣いていた。
 ティーダは、優しい手付きで、ユウナの頭や背中を撫でた。自分の所為で、ユウナをここまで追い詰めてしまった。そう思う度、ティーダの目頭が熱く湿った。


──笑って旅をしたいから──

気丈に振る舞っていたユウナ。
運命を受け入れ、常に笑顔を絶やさずにいたユウナ。
そして──

シーモアと口付けした、ユウナ。


 その出来事を思い出すと、ユウナ自らが望んでいたものでなくとも、ティーダは胸を強烈に締め付けられ、吐き気すら覚えた。未だに鮮明に残っている、一番嫌な記憶。下らない嫉妬だと、ティーダ自身自覚していても、抑える事が難しい程の衝動がティ-ダに駆け巡る。様々な感情が入り混じり、言葉に出来ないその想いに、ティーダは無意識にユウナを抱く腕に力を込めた。
(俺が──ユウナを救う)
 ティーダは、ユウナの顎を持ち上げた。一瞬きょとんとするユウナ。構わずティーダは、熱くなった唇を、ユウナのそれに重ねた。
 ティーダの頬に、一粒の涙が静かに伝わり、ユウナの華奢な肩に落ちた。
 ユウナはその存在に気付き、そっと唇を離し、ティーダを見つめた。

(ああ、キミがいる……)

 ユウナは安堵の吐息を漏らし、ティーダの涙を細い手で拭った。
「……どうしたの? 何で泣いているの?」
 ティーダは、逞しい自らの右腕で、乱暴に両目を擦った。
「ユウナが──ユウナの事が、好き過ぎるんだ……」
 そう、泣けてくるくらい愛している、ティーダの瞳からは、大粒の涙が次々と溢れ出し、止まらなくなった。
「情けないッスね、俺って」
と、鼻を啜りながら呟くティーダに、ユウナは大きく頭を振り、ティ-ダの逞しい肩に両腕を回した。
「情けなくないよ! 凄く嬉しいッス!」
 ユウナは涙声で答えるや否や、自らティーダの唇を求めた。
 互いの涙が、互いの唇を伝い、交じり合いながら口の中に広がっていく。
 僅かに塩辛い幸せの味。
 愛してるなんて、言葉にしたら陳腐になる。
 だから、互いの肌の温もりで、確認する──その存在が、決して幻ではない事を。


 空が白む頃、ユウナは静かに寝息を立て始めた。その寝顔は、微かに笑顔をたたえている。
 ティーダは、そんな彼女の安らかな顔に、柔らかい口付けをひとつ落とし、囁いた。

「悪夢は、終わったから。俺はずっと、傍にいるから──」

 

 だから、どうか安らかに眠ろう。
 いつでも見守っているから。
 見守りたいから。
 愛しているから。


 ──決して、消えないから。

「おやすみ、ユウナ」

 ティーダは、ユウナの耳許で囁き、愛しい彼女を抱き締めながら、ゆっくり眼を閉じた。

 

 

【後書】
FF10-2発売4周年、というか、ティユウ再会4周年、おめでとうございます☆
早いもので、あれから4年も経っていたのですね。
ベストエンディングを観る為に、2回もプレイした事が懐かしいです。ええ、トレマも倒しましたとも。
「絶対にユウナんを幸せにするんだ!」 当時はそれしか頭になかったです。
作品の内容については、設定的には、再会数ヶ月後あたり、幸せな生活に慣れてきたけれど、互いに(特にユウナんPTSDかよw)不安を抱え、少しずつ乗り越えていく過程の一場面を書いたつもりです。
また、タイトルはB'zの曲から拝借いたしました。詞の内容も、何となくテーマに近いものがあったので。
また、今回ははりきって、挿絵も自作です。駄絵です。

とにかく、ティ-ダとユウナん、いつまでもお幸せに・・・。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送