旅立ち

 

 ベベルから依頼が来た。

 あれからカモメ団は解散した──筈だったのだが・・・。

 

 現在のスピラの政治は、ヌージ、ギップル、バラライの三人が執り行っており、争いもなく安定している。本拠地はベベル寺院。これは、スピラの人達の意見で、ほぼ全員一致で決まったことである。そして、スピラの歴史を明らかにする事も。

 実はユウナにも、彼らと共に政治に参加して欲しいという意見が多数あり、再度三人からお声がかかったが、ユウナは「私には無理ッス」と断った。
 ユウナは、ただ静かに暮らす事を望んでいた。
 ビサイドで、彼──ティーダと二人で。

 ところが、ギップルがこんな事を言い出したのだ。
「カモメ団、再結成ってのはどう?」
 新ベベルと委託契約を結び、スピラの歴史を探るため、各地に眠っているスフィアを見つけて欲しい、そんな話だった。
 困惑しているユウナに、ヌージが意地悪そうにたたみかけた。
「他のメンバーには話してある。全員請け負ってくれるとのことだ。あとはアンタ次第だな」

 

「じゃあ、ユウナは暫くいなくなるのかぁ」
 朝食の席で、ユウナはティーダに仕事依頼の話をした。

 二人は今、ビサイドで一緒に暮らしている。
 ティーダは、ビサイドオーラカのキャプテンを勤め、毎日ブリッツの練習に励んでいる。
 ティーダが戻ってきた事で、ワッカも監督兼コーチとして、負けずに精進している。というより、少々はしゃぎ気味と、周りからは苦笑されているが。

「チームが強くなるのは勿論だけど、彼が帰ってきた事が嬉しいのよ」
と、ルールーは語っていた。「あの人だけでなく、私もね。彼が存在している事に。彼は皆に笑顔を与えてくれる、そうね……例えれば太陽みたい」

 全くその通りであった。
 ティーダがいる事で、周囲が明るくなる。ビサイドオーラカの面々も、ティーダの影響か、士気が高まっているし、村全体が賑やかになった。
「でも、彼がいる事で一番輝いているのは、ユウナ、貴女よ」
 ルールーは、フフフと微笑みながら、付け加えた。
 それは、ユウナ自身も自覚せざるをえなかった。

 そう、私はキミがいないと……。

 

「うん、ザナルカンドを主に、探ってくれって」
 ユウナは、手早く後片付けをしながら、依頼内容を説明した。「以前、シーモアさんに観せてもらった千年前のザナルカンドのスフィアが、ルブランの家の地下で、偶然見つかったの。ほら、あの人、ヌージさんの世話役じゃない。それで、まずザナルカンドの歴史を──」
 話途中のユウナの唇を、ティーダが自分のそれで塞ぐ。
「──っ、ティーダってば!」
「食後のデザート、頂きます」
「えっ……ちょっと、迎えが来ちゃう……んっ!」
 後ろからはがい締めにされたユウナに、抵抗する術はなかった。
 ティーダは、ユウナの耳元で囁く。
「……淋しいッス、ユウナがいない生活」

 

「久しぶりぃ、ユウナん!」
 身仕度を整え、ティーダと手を繋いで砂浜へ向かう道の途中で、リュックが軽い足取りで駆け寄ってきた。それでも二人は、手を離さない。
 ユウナは照れ笑いを浮かべ、リュックに手を振る。
 リュックは、二人の様子に気付いたのか、あれれぇと冷やかし混じりで言った。
「時間、もう少し遅いほうがよかった?」
 ニヤニヤしながら、リュックはティーダの脇腹を、肘で小突いた。
「もうっ! リュックったら!」
 ユウナは、繋いだ手を後ろに隠し、抗議の声をあげた。
 イヒヒッ、とリュックは笑い、二人の前を歩いた。
 冷やかしながらも、ティーダの復活にリュックも喜び、二人を祝福しているのだ。
「国家権力のご命令だからね。ユウナん借りるけど、ごめんねぇ、って、アタシが謝るのも変だけどさ」
「仕方ないッスよ、仕事なんだから」
 ユウナの前では拗ねていたティーダだが、一応男としての余裕を見せたいらしく、割り切ったように言ってのけた。ユウナは、そんなティーダの態度が可笑しくて、笑いを堪えるのに必死だった。

砂浜には、懐かしい飛空挺が、太陽に照らされ、誇らしげにボディを輝かせていた。アニキやダチ、シンラ達が、この日のために、きちんとメンテナンスをしてきたのがうかがえる。
 乗り口前には、懐かしき面々がユウナを出迎え、口々にお帰り、と連呼していた。ただ一人、パインを除いては。
 パインは、腕組したまま飛空挺に寄り掛かり、静かで穏やかな微笑を浮かべ、ユウナとティーダを眩しそうに見つめ、そのままハッチを上っていった。
 ユウナはその微笑みが「お帰り」の挨拶である事がすぐに解った。
「ほらーぁ、そこ! 恋人との暫しの別れを邪魔しない!」
 リュックは、表に出ている仲間達を、無理矢理飛空挺内に押し込み、振り向きざま「早く来すぎちゃた分、名残惜しんでおいてねー!」と、手を振りながら言い残し、自らも飛空艇内に乗り込んでいった。
 二人はゆっくりと飛空艇に歩み寄る。勿論、互いの手を握り締めたまま。

「ユウナ」

 ティーダはユウナに向かい合うと、繋いでいない方の手で、ユウナの肩を抱き寄せた。ユウナは、そのままティーダに身を委ねる。
「二週間程度、だって」
 ユウナはぽつりと呟き、ティーダの腰に手を回した。「二年じゃない、たった二週間」
 まるで、ユウナ自身に言い聞かせるようなか細い吐息混じりの言葉だった。そして、ユウナはティーダの胸に、そっと顔をうずめた。ユウナの不安──自分がいない内に、再び愛する人が消えるのではないか、という思いが、胸に湧きあがる。その気持ちが、ティーダにも流れ込んできた。
「短いようで、長いようで……」
 ティーダは言葉を詰まらせた。胸元に湿り気を感じたのだ。それがユウナの涙だと、瞬時に判って、抱き締める腕につい力が籠もる。ユウナもつられて、きゅっとティーダに抱きついた。

「ユウナの帰り、待っているから」
 
 ティーダは力強く言い放った。
 俺は消えない──その意思を、ユウナに伝えるために。
 こくん、とユウナは小さく頷いた。
「そうだ、ユウナが帰って来る時、ご馳走用意してさ、初任務お疲れーってってさ」
 ティーダの突然の提案に、鼻を啜りながら、ユウナがあははっと笑って、涙で濡れた顔を上げた。
「でもキミ、料理作れないじゃない!?」
「あー、その、えっと……ルールーに教えて貰ったり、とかぁ」
 自ら言い出した、突拍子のない台詞に、ティーダはやや後悔し、誤魔化すために、一度ユウナの唇に口付けた。そして、仕切り直したように、きっぱりと宣言した。

「きちんとお留守番して、ユウナを待っています。だから、安心して仕事頑張って欲しいっス」
 
 ティーダの真摯で確信ある口調に、ユウナの瞳から、先程とは違う意味の涙が浮かび、溢れだした。
 ユウナは大きく頷き、涙で濡れつつも満面の笑みを、真直ぐティーダに向けた。 

「行ってきます!」


 二週間会えない分の、長いキス。力強いが優しい抱擁。
 ティーダの腕の温もりが、確かに存在するものであると実感し、ユウナの心に安堵が広がった。


 そう、キミは消えない。
 皆の──私の特別な太陽だから。


 ユウナはティーダの存在を漸く確信できた。
 彼が帰って来てから今まで、どんな時も離れずに過ごしてきた。
 ブリッツの練習に行くとき。
 買い物に行くとき。
 
 ユウナの心の奥には、常にティーダがいつか再び消えてしまうのではないかという不安が、渦巻いて消えなかった。また、ティーダもそれに気付きながらも、どうしてやる事も出来ずにいた。
 しかし今、やっとその不安から解放された。
 


『ユウナが必要としてくれるから、消えないッス』

 ティーダの台詞を思い出す。


 どれくらいの時間が過ぎただろう。
 二人は自然と唇を離し、抱擁を解いた。
 握り締めた手も離して――


「ご馳走、楽しみにしているからね!」
 ユウナは一言残し、飛空挺に乗り込んだ。

 

 まだユウナは知らない。
 彼らのラブシーンを、カモメ団全員が、飛空挺のブリッジからニヤニヤ見守っていた事を。

 

・・・To Be Countinued

 

【解説】
一度いなくなってしまった人が、再び一緒にいる不安、そしてその心の闇からの解放を書きたかったのです。
まあ、後はティユウのイチャイチャ? この二人には、とことんまでやって欲しいのが、管理人の本音です(・∀・)ニヤニヤ

 

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